土星蜥蜴の「筆のすさび」

日々雑感。 アニメ文化に関する気ままな評論・感想を書き連ねます。

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『人狼 JIN-ROH』の感想。

「このまま二人で、どこか遠くへ行っちゃおうか。誰も知らないところまで、逃げちゃうのよ。ね?そうしよ。ね?!」
「それは無理だよ。」
「え?」
「まだやらなければならないことがある。」
「でも、このままじゃ二人とも…。」
「すまない…。」
『人狼 JIN-ROH』より

以下、ネタバレが多分に含まれますので、ご了承の上でお進みください。


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 すげー。。。この一言に尽きます。押井さんの描く世界観がぎゅぎゅっと凝縮された感じだし、後のパトレイバーや攻殻の源流にあたる要素を多く感じる作品でした。いや、もしかしたらこの作品こそ押井さんの到達点を示すものなのかもしれない。つい最近『立喰師列伝』を見たことも良かった。あの歴史観を背景に作られたんだと理解すれば、なかなか世界観を理解するにも助かりました。ちなみに、監督は沖浦さんです。だからこそなのか、押井さんの癖がそれほど出ていなかったようにも思うwミリタリーな描写もリアルだったし、キレイな作画だった。それにしても、最後の場面でこの作品の物語と赤頭巾の寓話がひとつの筋のもとに収斂されていく様が素晴らしかった。脚本と演出も、かくあらまほしけれって感じですw素晴らしい、素晴らしい。。。

■源流としての『人狼 JIN-ROH』

 源流と言えば聞こえはいいけど、そもそもケルベロス・サーガと呼ばれる三部作の大尾として作られた作品なので源流ではないんです。ただ、前の二作『紅い眼鏡 / The Red Spectacles』(1987)や『ケルベロス-地獄の番犬』(1991)は実写でもあり、まぁ、アニメとしては源流にあたるのかなぁと。本作は2000年の発表だから、『-GHOST IN THE SHELL- 攻殻機動隊』(1995)よりも遅いことになります。
 物語は非常に緻密で、お家芸とも言える諜報戦や公安活動を背景にストーリーが展開されます。その様子は攻殻機動隊の九課の職務と似通った点もあったし、パトレイバーの様相にもつながっていた。だからこその源流なんだけど、源流とは言え後続の作品を上回るような内容であるところが驚きなわけですw
 特に冒頭に掲げたセリフはJ.D.サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』を意識していたのかな?神山監督の『攻殻機動隊S.A.C.』の「笑い男事件」で取り上げられていたからピンときましたww笑い男のオリジナルとも言えるアオイくんは社会との関係を断ち切って誰も知らないところへと逃げ行こうかと自問するけれども、結局は社会に自ら手を出して関係性を作ることに決めていました。トグサが施設のロッカールームで見た青い油絵の具で書かれたオリジナルな文面がそうだったと思う。社会の醜悪さに落胆して社会とのつながりを断ち切るのではなく、自ら行動することによって自身の居場所を確保しようとする意味があったと読み取れました。今回の場合では、伏は別に主体的に群れに戻ったわけじゃないんだよね。。そこが違うところだけど…。神山さんはアオイくんを造形するときに伏を意識したんだろうか。。端的に言えば、伏は狼として群れに居ることに疑念を抱いて人として生きる可能性を模索するけれども、結局は人になりきれずに狼でいることを選択してしまうっていうことだと思う。アオイくんに照らして言えば、醜悪な社会に従属するってことかな?ずいぶんと対照的な二人になるけど、それだけ同じ土俵に二人が立っているようにも見えた。
 パトレイバーとの似ている点を挙げれば、『機動警察パトレイバー 2 the Movie』(1993)での南雲隊長と柘植行人との悲恋がそれに当たるのかな?あっちでは柘植行人がテロリストであって、南雲隊長が公権力の象徴たる警察だった。そんな二人の悲恋っていうのが、人狼にも共通する構造だったと思う。うまい対置ですよね(^_^;)基本的に社会とか正義とか組織とか群れとかが一方では個人の前に置きながら、その反対に個人とか大多数正義に抑圧される弱小な正義とかアウトサイダーを設置する感じ。南雲隊長の場合はいくら好きでも逮捕していたし、伏の場合も逡巡は見せながらも群れの意志に従っていた。逆に少佐は人形遣いとの融合を果たして社会という束縛を逃れることになったし、アオイくんも自らの力によって社会の不正義を暴くことになった。後者の二人はどうしても現実離れしちゃう感は否めないけど、前者の二人のうち、特に伏の場合はかなりリアルに感じちゃいますwそれでも群れに帰属していかなければ生きていけないっていう、悲しいながらの結末が壮絶だった。
 加えて、敵同士の二人が逃避行をするっていうのは『ガサラキ-GASARAKI-』(1998)でも見かけた。あのユウシロウも無口だったから、なんだか伏と重なるんだよねw組織や家の意志に従って生きていくことに疑念を抱いて、自らの意志で行動しようと頑張るっていうところも伏と似ている。。思えば、『機動警察パトレイバー 2 the Movie』と『ガサラキ-GASARAKI-』も似ていたんだよね…。どこに接点があるんだろうか。。。今のところ見出せないんだけど、内容的にというか思想的に同じ色合いを感じてしまう。。

■押井さんの描くアウトサイド

 『紅い眼鏡 / The Red Spectacles』でのキャッチコピーが「正義を行えば、世界の半分を怒らせる…。」だそうです。見なきゃいけないなぁwwどうも人狼を見ても思ったんだけど、押井さんって社会のお仕着せがましいルールっていうもんが嫌いなんじゃないのかな?人狼もパトレイバーもそうだったし、攻殻でもそんな発想を垣間見ることはできると思う。極めつけは、好き勝手に作った『立喰師列伝』でのアウトサイダーな立喰師たちw彼らは社会につまはじきにされながらも、その存在に一定の意義を見出そうとする押井さんの姿勢が作品に表れていました。どうやらアウトサイダーに好意的な感じがするwそれに、社会に従属する中で個をいかに打ち立てるのかといった視点や、社会正義と自己の正義との折り合いをどのようにつけるのかといった問題を常に扱っている気がする。伏もしかり、素子もしかり、南雲隊長もしかり。そう考えると、スカイ・クロラが何の延長線上にあるのかが理解できないんだよねwwあれって何が言いたかったんだろうか…。。

■人と狼の境界線

「お互いにそういう立場だったのだから、あなたの責任じゃないわ。」

 このセリフが彼女のすべてを語っているように思う。そう、すべての行動は個人の責任によるものじゃなくって、帰属している組織なり群れの意志によるものなんですよね。。だからこそ、誰かが死んでしまっても、そこに個の消失はないのだから悲しみも薄い。そんな彼女が最後に絶叫しながら伏にすがりつく場面が一番良かった。彼女は伏と出会ったことによって、人として伏の心の中に置いてもらうことができるようになり、個を獲得できるものだと考えたんでしょうか。伏に希望を見出していたにも関わらず、「じゃぁ、あなたも初めから…、そうなの?」と言って、伏の裏切りを知ることになる。なんたる悲恋!伏の取る行動の論理は彼女自身がよく知っているんだろうけど、ようやく人として生きる道を見出せた相手に裏切られただけに衝撃も大きく伝わってきます。何も人になろうとしていたのは伏だけじゃなかった。彼女もまた、伏と同様に一個人としての生き方を模索していたんだと思います。
 とは言え、話の主人公は伏であって、心理描写も彼を中心に描いていました。彼は群れの意志に従う狼=国家の犬であり、個人の意志など存在しない獣でした。けど、ふと人としての感情に目覚めたのか人を殺すことを躊躇ってしまう。オチが見えないときは単なるPTSDの男の物語かと思ったけど、そうじゃない。彼は人殺しにも慣れている存在だったんです。決して人殺しの初心者ではなかった。だけど、あるとき人を殺すことを躊躇ってしまった。そこで、普通の人として生活したり恋をしたりすることに一種の憧れのような感情を抱いてしまうことに。。一瞬だけど、「どこか遠くへ…」なんて夢見ることもwだけど、最後には群れの束縛から逃れることもできず、帰属することを選んでしまいます。結局は獣であることの安住から抜け出すことはできなかった。そんな獣と人との境目が設定されていたからこそ、そこで揺れ動く伏の心理がよく描ききれていた。最後の嗚咽ともわからない声が非常に良かった。



 押井さんの本気を見た気がする。いや、いつも本気なんでしょうけどw攻殻が著名だけど、むしろあれは押井監督が大衆向けに作った作品なのかもしれない。よっぽど劇パト2や人狼のほうが高い表現性のもとに物語が構成されていると思う。いやぁ、久しぶりに充足感を味わうことができました☆

テーマ:見たアニメの感想 - ジャンル:アニメ・コミック

  1. 2009/11/05(木) 00:01:00|
  2. 人狼 JIN-ROH
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